「合わない」と言って放置しないで
 女優の故・樹木希林さんは映画「万引き家族」(監督・是枝裕和、2018年)に出演する際、「気味悪い」老婆を強調するために入れ歯を外して役づくりに挑んだと言います。あるインタビュー記事では、若い頃に街で見かけたおばあさんに着想を得たと話、「人間が老いていく、壊れていく姿を見せたかった」とも。とことん現実性を追求する女優魂には頭が下がります。
 ◇うまく噛めない
 本来、高齢者にとって入れ歯は“命”とも言えるほど大切なものですが、入れ歯を使っていない人がいることも事実です。うまく噛めずに悩みを抱えている人も少なくありません。
 一般的な入れ歯は土手状に盛り上がった歯肉に乗せ、唾液の吸着力などを利用して固定します。しかし、年齢を重ねて土手が平らになってくると入れ歯と歯肉にすき間ができ、うまく固定できずにぐらついてしまいます。
 ◇定期的な調整を
 しかし、入れ歯が「合わないから」と言って装着せずに生活するのは大きなリスクを伴います。65歳以上を対象にした調査では、入れ歯を使用していない人は転倒のリスクが2倍に増加。認知症のリスクも高まることが示されています。
 健康長寿には入れ歯が不可欠です。よく噛んで食事を摂れば脳が活性化します。唾液の分泌量が増え、誤嚥性肺炎の予防にもつながります。また、入れ歯を装着すると発声が改善し、家族や知人とのコミュニケーションが取りやすくなるという効果も。
 入れ歯を使い続けるには定期的な調整が必要です。「生きる力」を維持するためにも、「合わない」と感じたら、かかりつけの歯科医にご相談ください。